《父の日記》 記：2008/08/08

三月三十日（金）晴
本日午後仮入校式ヲ挙グ。今ヨリ自分等ハ栄アル熊本陸軍幼年学校ノ生徒トナレル喜ビニ胸ヲ躍ラセナガラ、制服ニテ母上ト面接ス。胸中ノ決意ヲ打チアケ、壮快ナ気持ニテオ別レス。少シ淋シイガ、上級生ノ方ヤ、下士官ノ方ガ懇切丁寧ニ指導シテ下サルノデ、気ヲ引キ締ムル。夕食後、腹痛ニテ診察ヲ受ク。自己ノ不注意カラ御心配ヲカケ申シ訳ナシ。

三月三十一日（土）晴
起床ラッパニテ起床、面洗、体操ノ後、皇居ヲ遥拝シ雄建神社ニ参拝、後、郷里ノ方向ニ向ヒ挨拶ス。十一時、空襲ニナリ待避ス。・・・・・・
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四月十一日（水）晴
本日身体検査アリ。入校時ヨリ0.八キロ増エ、三十・八キロナリ。昼前、体力検査実施。百米廿・四秒、手留弾廿一米、懸垂五回、等。今一層ノ努力ヲ要ス。・・・・
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五月一日（火）雨
・・・・今朝週番士官殿ヨリ、「独乙ハ米英ニ対シ無条件降伏ヲ申シ出タリ」トオ話アリ。ヤハリ欧州人ノ哀レサナリヤ。最後ハ命惜シサニ降伏セシカ。・・・
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五月二十八日（月）晴
本日十四時五十分、三学年の○○サンガ藤崎分院ニ於イテ遂ニ亡クナラレタリ。真に哀惜ニ絶ヘズ。我等モヨク慎ミテ、過チ無キ様、○○サンノ死ヲ無ニセザル様務ムベキナリ。
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六月二十九日（金）曇
本日休養ノ時、帰省ニ関スル、出発帰校ノ日ガ発表サレタリ。吾十一日ヨリ十六日ナリ。損得ヲ口ニスル者アレド、此ノ大戦中ニ帰省ヲ許可サルルヲ感謝スベキナリ。・・・・
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七月十二日（木）雨
今朝姫路駅ニ着ケルも、爆撃被害ノ甚大ナルニ驚ケリ。市街ハ見渡ス限リ焦土ナリ。白鷺城ノミガ巌然ト立ツ。我家ハ無事ナリ。家族も無事ニテ。話ノ種多ク尽キズ。
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八月二日（木）晴
前期期末考査始マル。第一時限ハ自習ニテ、二限三限ハ考査ナリ。本日ハ歴史ト生物ナレド自信ナシ。努力足ラザルガ故ナリ。・・・
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八月八日（水）晴
本日ハ大詔奉戴日ナリ。又吾ノ誕生日ナリ。九時前ヨリ特別攻撃隊、振武隊隊員ノ方方来校サレ、軍歌演習ヲ観テ戴ク。・・・

八月九日（木）晴
本日ハ終日遊泳ノ準備ナリ。・・・・・・コノ演習中ハ立派ニ過シ、将校生徒ノ誇ヲ持ッテ行動セン。而シテ演習ノ目的ヲ達成シ、本分ニ突進セン。
昼前、台上ヨリ西北ノ天空ニ、巨大ナル茸状ノ雲立チ上ルヲ見タリ。

八月十四日（火）晴
本日ハ耳ノ痛ミモ取レ、治癒ニナレリ。六百米ハ泳ゲリ。訓練ノオ蔭ナリ。・・・

八月十五日（水）晴
本日午前中ハ遠泳ノ予定ナレド、敵機ノ来襲アリ一、二班ノミ遠泳アリ。三十分宛、二回泳ゲリ。途中敵グラマン機ノ銃撃ヲ受ク。海中ニ待避ス。
海ニモ慣レ、相当ニ自信着キタルモ、午後ハ早クモ帰校準備ナリ。
十二時ヨリ重大放送アリト宿舎前ニ整列ス。
畏クモ陛下ノ玉音ノ放送ニテ、遂ニ敵連合国ト和ヲ請フニ至レルヲ御諭シニナラレタルナリ。
夕食後、訓育班長殿ヨリ詳シク御注意アリ。
我等ハ只本分ニ精励スレバヨキナリ。頭ガ混乱シ、何モ手ニツカズ。
何トモ言ヘヌ憤怒憤激ニ、心張リ裂クル如シ。

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先日、他界した父の日記です。地元の文学系の同人誌に掲載されていたものを抜粋しました。
父はその後、権力を憎み、肩書きを嫌い、宗教、国家、政治などから離れ、気ままにアウトサイダーとして暮らしたようです。
この日記の主、14歳の子供を手玉に取る世の中になることが無い様、祈り、また行動したいと思います。