《その後》のその後を書き足しました

ヒマなので、この間の続きを書いてみました。
ヒマなお方はどうぞ、ご高覧願います。
またヒマなときに書き直すかもしれませんが。
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《その後》
そうか、間に合わなかったか。
量子計算機もまもなく本格稼働だったようだな。
科学社会が進み、もう少しで技術が能力を超える特異点を迎え、うまく行けば楽に過ごせたはずだ。
細胞再生技術も見つけていたんだろう?
飛躍的に寿命が延びて、無熱光が明るくこの星を照らしていたと思うよ。
残念だったな。
多くの星の生命体が、この完成形の直前で、こうやって自ら破滅するんだ。
中性子連鎖開放型爆弾か、彼らがこの兵器を無力化する技術を見つけられなかったのはなぜだと思う?
それはな、見つけたくなかったからなんだよ。
こうやって生命のあだ花は消えてしまうんだ。
よく見ておけよ。
もうだれもこの星の生命を弔うものはいないのだから。
せめて俺たちがこんな星があったということを覚えておいてやろう。
そう言って、数千年前に滅んだ小さな恒星の第三惑星を調査に来たものたちは去って行き、放射能の残る砂塵だけがこの星の表面を舞っていた。
 
調査団を乗せた船はしばらく近くを回遊し、データを集めたのちこの恒星系から離れて行った。
帰りの道すがら、隊長は前方の航路を見つめたまま一人語り出した。
この星の高等生物は、宇宙にデビューする寸前だったようだな。
見てみろ、ほどよく釣り合った近くの衛星だけでなく、第二惑星、第四惑星にもその痕跡があるぞ。
 
結局エネルギーの争奪戦を繰り広げたのかな。
いい線まで行っていたのに、もったいないことだ。
 
こんな終末戦争の痕跡を嫌というほど見てきたが、元々その星の生命体が持っている生命欲が大きく作用しているような気がするんだ。
なんとなくうまくやって生き残った星もある。
うまく終末を回避した星もある。
回避の方法は三つある。
まず簡単なのは、この中性子連鎖開放型爆弾を運ぶ飛翔体を飛べなくする方法だ。
撃ち落とすのが手っ取り早いが、技術が進めば空気の組成を変えたり、誘導波の混乱を作り出すことも可能だ。
第二は、相当な技術を得てからになるが、中性子の連鎖自身を止める、或いは逆に鎮静化させることだ。
これには作り出すのに費やした時間や費用の数倍は掛かるだろう。
それにどうしてもやり遂げるという強さが必要だ。
第三は、実はこれが最も現実的で最も回避しやすく、多くの星が採用している方法だ。
それは相対する敵を取り込んで一つになることだ。
生命体は普遍化することを拒むことで始まる。
個の確立だ。
増大するエントロピーに逆らうことで成り立っている。
ゆえにその星の最終形となる高等生命体になっても敵を作り、自己を防衛し、増大させようとする。
それに気付くものがリーダーになるか、或いは感情を廃し、論理のみを構築できる頭脳を作り、それに従うかになるのだ。
運のよい星は絶滅前にそれを手に入れる。
もちろんそれが不幸だという者もあらわれて激論になる。
しかしリアリティをもって絶滅の危機を感じる能力を持てた生命体は、危機を回避する手段にこれを用いることになるのだ。

この統一国家のようなものを、またいずれ分断が訪れるのだから意味がないと考えるものも出てくる。
しかしそれは間違いだ。
感情をコントロールするものが論理なのだ。
その論理に従うことがいずれできるようになる。
いや、できるようになる生命体だけが生き残れると言うわけだ。

ただ厄介なことに、この星の生命体の神経集合組織を調べてみたが、他の星と少し違う。

普通はまず生命維持のために働く中枢が現れ、それに覆いかぶさるように生命維持にプラスに働くような運動系をつかさどる組織ができる。
ここまでは他の星と同じだ。
 
だが多くの星の生命体では、この上に好きか嫌いか、損か得か、役に立つか立たないかなど、感情を基盤とした二者択一の選択をする機能を持った組織ができ、さらにその上に物事を始める前に推論する能力を手に入れ、それを発達させて道徳や義務、事の善悪を推し量る能力を磨く。
 
この第四番目の神経集合組織が第三番目の組織の感情を押さえる事になる。
ところがこの星の最終形は三番目と四番目の組織が左右に発達し、同列なのだ。
これが心の葛藤を生み、諍いが絶えなかったであろうことが推測できる。
 
もちろん良い面もあったと思う。
素晴らしく心が豊かで、喜びがあふれ、幸せを感じることができる時代もあっただろう。
しかし一歩間違えれば下等な生命体以上に残虐で残酷な行いを平然とやってのけたと思う。
何かのはずみでこういう発達の仕方をしてしまったのだから、彼らのせいではないのかもしれない。
しかしこれではこの壮大な宇宙へのデビューは出来なかったのだ。
 
お互いを慮ることができずに、自己の利益を優先し、憎みあい、殺し合ったのだろう。
これも生命の袋小路の一つかもしれないな。
 
さあ、データの整理が出来たら、チップを船の中央装置に埋め込んでおけ。
これで我々全員で知識を共有できる。
後はコールドスリープだ、眠ったまま帰り着くのを待つだけだ。
ではその時までみんな、お休み!  
(第1章 完)